青森地方裁判所 昭和35年(ワ)47号 判決 1971年2月25日
原告 石沢寛
被告 国 外二名
訴訟代理人 宮村素之 外五名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第一、原告代理人は、
第一次請求として、
「(一)、被告国は原告に対し、青森県むつ市大字田名部字明神川八番の四宅地四二一坪三合八勺中別紙図面のイ、ハ、ニ、ホ、ヘ、イを順次直接で結んだ部分(二三九坪一合六勺)が原告の所有であることを確認し、かつ右部分を分筆のうえ所有権移転登記手続をせよ。
(二)、被告らは各自原告に対し、金四六一、二五〇円およびこれに対する被告国は昭和三五年三月七日から、被告木村は同月五日から、被告畑中は同月六日から、完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(三)、訴訟費用は被告らの負担とする。」
との判決ならびに(二)、(三)につき仮執行宣言を求め、
第二次請求として、
「(一)、被告らは各自原告に対し、金一、五九七、五〇〇円およびこれに対する被告国は昭和三五年三月七日から、被告木村は同月五日から、被告畑中は同月六日から、完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(二)、訴訟費用は被告らの負担とする。」
との判決ならびに仮執行宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。
一、(一)、青森県むつ市大字田名部字明神川九番田八反一五歩はもと原告の所有であつたところ、昭和二四年七月二日原告は被告国、同木村との間において右土地のうち北側一反二畝九歩について次の契約を締結した。
1 原告は、右土地の所有権を原告から被告国に移転する目的で、まず被告木村に対し右土地の所有権を信託的に譲渡し(但し内部関係においては右土地の所有権はなお原告に留保する。)、しかる後被告木村より被告国に対し右土地を売渡す。
2 右土地代金は、被告国が被告木村に支払い、次いで同木村が原告に支払う、
3 原告が右代金の支払いを受けると同時に、被告国は右土地の所有権を取得する。
4 被告国は、右代金が被告木村を通じて原告に確実に支払われるよう責任を持つ。
原告は、同年八月一日、右約旨に従い、前記明神川九番田八反一五歩から、右契約の目的たる北側一反二畝九歩の部分を分筆のうえ(よつて、同部分は同所九番の一田一反二畝九歩となつた。)これを被告木村に譲渡した(以下単に「本件土地」というときはこの部分を指す。)。
被告木村は、同日、本件土地を同所八番の一宅地に合筆し、右合筆後の同所八番の一を更に同所八番の三宅地三八〇坪一合、同所八番の四宅地四二一坪三合八勺に分筆し(よつて、八番の三宅地には、本件土地中九四坪二合五勺が包含され、八番の四宅地には、本件土地中二三九坪一合六勺-別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、イを順次直線で結んだ部分-が包含されることとなつた。)、右八番の三の宅地を電気通信省に、右八番の四の宅地を郵政省にそれぞれ売渡し、その所有権移転登記を経由した(なお、右八番の三宅地はその後日本電信電話公社に譲渡されその旨登記がなされたから、八番の四の宅地のみが現に被告国に帰属する。)
被告畑中は、被告国の公務員であつて、右三者間の契約に際し、被告国の本件土地買受事務担当者として右契約締結の衝に当たつたものである。
(二)、しかるに、被告木村は前記約旨に反し原告に対して右代金を支払わず、被告国、同畑中も被告木村をして原告に対し代金を支払わしめるべく何等の努力もなさなかつた。そこで原告は昭和三五年一月一二日内容証明郵便で、被告国、同木村に対し、右契約を解除する旨の意思表示をし、その頃同書面は右被告らに到達したから、これによつて右三者間の契約は解除された。
(三)、ところで、前記のように、原告が被告木村に譲渡した本件土地は現在登記簿上、青森県むつ市大字田名部字明神川八番の三のうちの九四坪二合五勺、同所八番の四のうちの二三九坪一合六勺その他に該当し、その位置関係は別紙図面のとおり(赤斜線部分が本件土地を示す)であるところ、右八番の四の土地は現在被告国の所有名義であるが、右八番の三の土地は、既に被告国から訴外日本電信電話公社に所有権が移転され、その登が記経由されており、同土地のうちの九四坪二合五勺の対価は金四六一、二五〇円である。従つて、前記契約解除により、右八番の四の土地のうち二三九坪一合六勺の所有権は原告に復したが、右八番の三の土地のうちの九四坪二合五勺について生ずべき被告国、同木村の原状回復義務は右時価相当の損害賠償義務となつた。
なお、被告畑中は前記のように被告国の事務担当者として右契約を締結するに際し、被告国の義務を履行せしめることを約したものであるから、原告のため被告国の関係機関と連絡をとり、被告木村を監視し右売買代金が原告の手中に帰するよう取計う契約上の義務を独立して負うものであり、従つて右八番の三のうち九四坪二合五勺部分の返還不能については被告国と同一内容の損害賠償義務がある。
(四)そこで原告は、被告国に対し右八番の四のうち二三九坪一合六勺につき原告に所有権があることの確認及び同部分を分筆のうえ原告のため所有権移転登記手続をなすことを求め、被告らに対し、右八番の三のうち九四坪二合五勺につき原状回復不能による損害賠償として、各自同部分の時価相当額四六一、二五〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日(被告国については昭和三五年三月七日、被告木村については同月五日、被告畑中については同月六日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二、(一)、仮りに前記契約解除によつても本件土地の所有権が原告に復帰するものでないとすれば、被告畑中は、昭和二四年七月二日被告国の公務員として前記契約を締結するに当り、原告に対し甘言を弄し、原告をして被告木村に対し本件土地を信託的に譲渡せしめ、かつ右契約の趣旨によれば、関係上級機関と連絡をとり、被告木村を監視し、被告国から同木村に支払われる売買代金が原告の手中に帰するように取計う義務があるのに、これを怠りその結果原告をして何等の対価を得ることなく本件土地の所有権を喪失せしめたものであり、右は同被告の故意または過失に基づくものである。
よつて同被告は不法行為責任として原告に対し本件土地のうち前記八番の三、四に含まれる部分(三三三坪四合一勺)の時価相当額である一、五九七、五〇〇円の損害賠償義務がある。
(二)、被告国は、その公務員たる被告畑中の使用者であり、同畑中の右不法行為はその職務を行うにつきなされたものであるから、国家賠償法第一条又は民法第七一五条により、被告畑中の不法行為による損害を賠償すべき義務がある。
(三)、また、被告木村は一の(一)記載のとおり原告からの被告木村に対する本件土地譲渡契約の当事者であるところ、同被告の代金債務不履行により右契約が解除されたこと前叙のとおりであるから、同被告の本件土地返還義務が不能となれば、原状回復に代る損害賠償として原告に対し本件土地のうち八番の三、四に含まれる部分の前記時価相当額の金員支払義務があるわけである。
(四)、よつて、原告は、被告らに対し、各自損害賠償として本件土地の時価相当額である金一、五九七、五〇〇円およびこれに対する前記本訴状送達の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第二、被告国指定代理人、被告木村、被告畑中は、それぞれ原告の請求棄却および「訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに被告国指定代理人において担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
一、本件土地はもと青森県むつ市大字田名部字明神川九番田八反一五歩のうち北側一反二畝九歩の部分であつたところ、昭和二四年八月一日、分筆されて同所九番の一田一反二畝九歩となり、さらに合筆、分筆がなされた結果現在本件土地中九四坪二合五勺が同所八番の三宅地に、二三九坪一合六勺が同所八番の四宅地に含まれていること、右両宅地につき、それぞれ原告主張どおりの所有権移転登記が経由されていることは認める。しかし、本件土地につき、原告主張のような三者間の契約がなされた事実はない。
被告国は本件土地を同木村から譲受けたことはあるが、それは次の経過による。
被告国は本件土地を含む現在の田名部郵便局敷地および田名部電報電話局敷地を新庁舎建設敷地として買受けることとし、昭和二四年七月二三日右敷地所有者である被告木村から青森県むつ市大字田名部字明神川八番田一反一畝一五歩、同所九番田八反一五歩および同所五番田三反三畝九歩の三筆の土地のうち本件土地を含む実測四二一坪三合八勺を買受けた。ところで右売買当時、右九番の土地は、登記簿上原告の亡父石沢寂導の所有名義となつていたが、それは、被告木村が、昭和一九年中に原告から、右九番の土地のうちその後に分筆されて同所九番の一となつた部分の土地(すなわち本件土地)の所有権を、同じく分筆されて同所九番の二田三畝五歩および同所一〇番田一〇歩となつた部分の土地と交換により取得していたにもかかわらず、これらの土地一帯の耕地整理事業が未了であつたため右実体に符合する登記手続が経由されていなかつたことによる。そこで被告木村は、被告国との前記売買契約締結に先立ち原告から委任状<証拠省略>の交付を受け、まず右九番の土地について右石沢寂導から原告に相続登記をなし、次いで売買契約が締結された昭和二四年八月一日、同所九番、八番、五番の各土地を各一、二に分し、その分筆された右九番、八番、五番の各一をそれぞれ田から宅地に地目変更をし、右九番の一を自己名義に所有権移転登記手続をしたうえ、これを右五番の一とともに右八番の一に合筆して地積訂正をなし、さらに右合筆した八番の一を同所八番の一宅地三四三坪四合一勺、同所八番の三宅地三八〇坪一合、同所八番の四宅地四二一坪三合八勺、同所八番の五宅地四九坪五合に分筆し(本件土地は、以上の経過により右八番の三、四、五の各一部分となつた。)、爾後右各宅地につき原告主張どおりの所有権移転登記手続が経由されたのである。
従つて、被告国が被告木村から本件土地を買受けた当時、原告は本件土地につきなんら実体上の権利を有したものではないから、被告国は被告木村に支払われた右売買代金が原告に交付されるよう取計うなどの約束をするはずはない。
二、被告畑中は、独立して原告主張の契約の当事者となつたことはないばかりでなく、被告国の公務員として本件土地の買受事務に当つたこともない。昭和二四年当時同被告は、田名部郵便局主幹の職にあつたにすぎず、被告国の買受事務担当官ではなかつたから原告に対し甘言を弄し原告をして被告木村に対し本件土地を信託的に譲渡せしめるなどの行為をなすはずがない。
三、本件土地の時価相当額に関する原告の主張は争う。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、本件土地はもと青森県むつ市大字田名部字明神川九番田八反一五歩のうち北側一反二畝九歩であつたところ、昭和二四年八月一日分筆されて同所九番の一となり、その後の分合、表示の変更により、現在本件土地中九四坪二合五勺が同所八番の三宅地に、二三九坪一合六勺(別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、イの部分)が同所八番の四宅地に含まれること、右八番の三、四の両宅地にそれぞれ原告主張の所有権移転登記が経由されたことは当事者間に争いがない。
二、原告は、昭和二四年七月二日本件土地につき原告、被告木村、同国の三者間において請求原因の一の(一)記載内容の契約が締結されたのであつて、被告木村及び同国に対する各登記はその履行としてなされたものである旨主張するのであるが、これにそう原告本人尋問の結果(一、二回)は次に掲げる各証拠に照らし信用できないし、また右主張に符合するがごとき<証拠省略>も、その作成経過に徴し、右主張を認めしめるに足りない。すなわち<証拠省略>を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告木村は、製材工場建設用地として昭和一八年一〇月頃訴外菊池仁康所有にかかる字明神川五番田三反三畝九歩を同訴外人から買受けたが、同地は原告所有の前記字明神川九番-本件土地はかつてその一部に含まれていたこと前記のとおり-の西側に位置したところから地続きの右九番の土地を工場用地として取得することを企図した。ところで、これら土地一帯は当時下北郡田名部町早川耕地整理組合施行の耕地整理事業地区内にあつて、右五番のうち二反八畝一一歩の部分(同部分は昭和二四年八月一日分筆されて同所五番の二となつた。)についても、国鉄田名部駅から明神町へ通じる道路を狭んで本件土地の南側に一四三坪の三角地(昭和二八年三月三〇日換地処分により同所九番の二田三畝五歩および同所一〇番田一〇歩となつたところ)が仮換地の一つとして指定されていたが、右三角地は当時田として耕作されていたものの角地として将来使用価値が増すことが予想され、また、その南に地続きで原告所有地が存在していたので、かつて菊池仁康と原告間で原告所有の他の土地と右三角地を交換する話が出たことがあつた。そこで昭和一九年秋頃訴外河野栄蔵の仲介により、被告木村と原告との間で、同被告が使用収益権を持つ右三角地と原告所有の右九番の土地のうち北側一反二畝九歩(本件土地)とを交換する旨の合意がなされ、その頃互いに右各土地の引渡しがあつて、以後同被告は本件土地上に製材工場を建てて使用し、原告は右三角地を田として耕作した。しかし、当時前記耕作地整理事業が進行中の故をもつて、右各権利関係の移動に伴う登記手続がなされることなく推移した。
(二)被告国は昭和二四年春被告木村が本件土地を含む製材工場敷地を売却する意であることを知るや、これを田名部郵便局庁舎および田名部電報電話局庁舎新築用地として買取ることとし、同年六月仙台郵政局、東北電気通信局の係官が現地において被告木村と面談して右敷地買受の折衝をした。ところで、右売買交渉の対象となつた土地は前記字明神川九番田八反一五歩、同所五番田三反三畝九歩および被告木村所有にかかる同所八番田一反一畝一九歩の三筆中の四二一坪三合八勺(ほぼ別紙図面の赤線で囲む部分に相当する)であつて、右土地中には、前記のように、被告木村が訴外菊池仁康から買受けながら同訴外人名義のままになつていた部分および原告と被告木村間の交換の合意により被告木村において製材工場敷地として使用しながら原告の亡父石沢寂導名義のままであつた部分(本件土地)が含まれていたところから、右対象土地を被告国に売渡すに当たつては、売主である被告木村が原告や菊池に交渉して被告国に対する所有権移転登記手続をなすものとされた。そして、同年七月上旬から下旬にかけて原告から被告木村に対し前記明神川九番の土地の一部の売却並びに代金受領についての委任状(乙第二の一)、同所九番の一の土地の分筆、地目変更、被告木村に対する所有権移転の各登記申請委任状(乙第一七、一八、一九号証の各二)の交付があつたが、右交付の交渉には専ら被告木村が当たつたのであつて、そのころ被告国の権限ある係官が原告と本件土地の売買や代金交付に関し直接接衝したり何らかの合意をした事実はなかつた。もつとも、被告畑中がそのころ原告方を訪ねてはいるが、それは当時田名部郵便局主幹であつた同被告が、仙台郵政局係官の指示により、被告国と被告木村間の売買・登記手続を進めるため、必要書類を被告木村に速やかに交付するよう促がしたに過ぎないもので、その際被告畑中が被告国の代理人としてあるいは個人の立場において原告に対し本件土地の代金に関し何らかの合意をなしたのではない。
(三)(1)昭和二四年七月二三日ごろ被告国の代理人である仙台郵政局担当係官と被告木村との間において前記五番、九番、八番の土地の内四二一坪三合八勺について売買契約が締結され、同日付で買主を仙台郵政局長、売主を被告木村、訴外菊池、原告(後二者については被告木村が代人)とする売買契約書(乙第一号証)が作成されたが、同書面は被告国側において所要事項、各名義人を記載したものに、被告木村が本人または代理人名下に捺印したのであつて、それは被告国に対する所有権移転登記を簡明に行うため便宜上作成されたに過ぎない。
(2) 右売買土地代金は昭和二四年八月から一〇月にかけて被告木村に対し全額支払われた。ところが、昭和二五年三月頃から、原告が田名部郵便局で執務中の被告畑中のもとを屡々訪れ、同被告に対し、「本件土地は元来原告の所有であつたが、被告木村との間で同被告所有の土地と交換することを約したにもかかわらず同被告はその代替地を提供しない。本件土地は既に同郵便局の敷地になつているから、同郵便局としても原告に対し右交換についての紛争解決に協力する義務がある」旨執ように主張した。そして同年七月頃原告は被告畑中に対し、「明神川九番の土地買上は被告畑中の願いによりなされたものであるから、被告木村から原告への代金支払も、郵政局の被告木村に対する代金支払後直ちに履行させることを約束する」旨の昭和二四年七月二日付、被告畑中名義、原告宛書面の作成を要求し、該書面は専ら被告木村に対する交換契約履行請求の手段に使用するに過ぎないと言明した。被告畑中は昭和二四年七月当時そのような約束をした事実はなく、被告木村と原告間の交換契約履行如何は何ら関知するところではなかつたが、原告の度重なる執ような要求と、執務の妨害から解放され、また本件土地に関し原告と被告木村との間に紛争があるならその解決の一助になろうと考え、原告が口述するところに従つて、前記要求どおりの書面を作成した(甲第五号証の「念書」)。
(3) しかしながら被告畑中が甲第五号証の「念書」を作成した後においても、原告は被告畑中のもとを訪れ、今度は同書面を根拠に、被告畑中個人あるいは被告国に責任があると主張したが、昭和二七年二月頃前記明神川九番のうち宅地一反二畝九歩(本件土地)を田名部郵便局、電話局敷地として売却するため、被告畑中を介して被告木村が原告から預つた旨の、預り人被告木村、保証人被告畑中、宛名原告なる昭和二四年七月二日付書面(甲第六号証の「預証」)を持参し、被告畑中名下の押印を要求した。被告畑中は甲第五号証の右「念書」作成の際と同様にこれまでの執ような原告との関係を断ちたいと安易に考え、原告の右要求に応じた。
原告はまた被告畑中を被告木村のもとに赴かしめ、被告木村に対しても右書面の同被告名下の押印を求めたが、これに対し被告木村は、原告との間の土地交換は既に互いに履行されているので右書面の記載は事実に即したものでないが、度重なる原告の追求にあつて困惑している被告畑中に同情してその懇請のままに同書面の被告木村名下に押印した。
(4) その後も原告は、被告畑中に対し前同様の主張、要求を繰返し、「本件土地を被告木村が昭和一八年来無断使用したが、郵便局、電報局建設に際しては将来迷惑をかけないと確約した」旨の、承諾者被告木村、保証人被告畑中、宛名原告なる昭和二四年七月二日付「承諾書」(甲第一三号証)を作成し、被告畑中に名下の押印を求めた。これに対しても被告畑中は同書面が如何なる目的に使用されるか、記載内容の真偽如何を確めることなく、前同様原告の執ような追求から免れるため自己の名下に押印し、また原告の指示により被告木村のもとに赴き、その使用人夏井三郎から被告木村名下に押印を得て、同書面を原告に交付した。
(5) また、昭和二七年六月七日付で、田名部郵便局長斎藤勝男、同局長代理被告畑中、土木建築請負業被告木村名義の原告宛「覚書」と題する書面(注甲第一二号証)があり、それには、被告木村は本件土地売却代金の代替地としてその所有地を原告に提供する……等の記載があり、さらに、字明神川八番の四宅地の一部を返還する旨の昭和二九年一月二三日付符箋が貼附されている。しかし、右書面は、原告及びその名義人らが、原告の強い要求を拒否し難く、右作成日に田名部郵便局当直室に集つた席上、原告が被告木村に対し一方的に要求したことを、後日原告の下書どおり被告畑中が記し、それに訴外斎藤勝男、被告畑中が原告の要求するままに押印した(被告木村名下の押印の過程は明らかでない。)もの、符箋はその作成日付ごろ原告が自己の独自の考えに基いて記したものを貼り斎藤及び被告畑中の割印を得たものである。
以上の事実が認められるのであつて、これらの事実によれば、被告木村は昭和一九年秋既に本件土地を同被告所有の前示三角地と交換して取得していたのであるから、昭和二四年七月被告木村が本件土地につき被告国の係官と売買契約を締結するに当り、請求原因一の(一)1ないし4のような内容の契約を締結する筈はなかつたということができる。甲第五、六、一二、一三号証の各書面も、その作成経過が叙上のようなものであつてみれば、被告木村と被告国との本件土地売買がなされた当時、原告と被告らとの間に原告主張のような合意がなされたことの証左となるものではない。ひつきよう、原告は、被告木村との間の交換に伴う登記手続が未了で、被告国に対する本件土地の所有権移転登記手続が原告から被告国に直接なされた形式によつていることに籍口して、交換の事情に関知しない一郵便局員である被告畑中を追及し、念書、覚書、承諾書等を入手して、請求原因記載のような主張をなすに至つたものということができよう。
三、以上説示したところに基づいて、原告の被告らに対する各請求の当否について判断する。
原告の被告らに対する第一、二次請求は、結局、昭和二四年七月二日原告、被告木村、被告国の三者間において原告から被告木村に対する本件土地所有権の譲渡並びにそれに対する代金支払に関する合意がなされたことを前提とするものということができる。被告畑中に対する第一次請求も同被告が右主張にかかる合意に基づく被告国、同木村の義務を履行させることを約したとしてその責任を求めるのであり、被告畑中、同国に対する第二次請求も、被告畑中の右約旨違反が同時に原告に対する不法行為となるというのである。しかるに、前示のように、当時本件土地に関し原告主張のごとき合意が成立したものとは到底認め難いのであるから、原告の被告らに対する本訴請求は、全てその前提を欠き理由がないものといわなければならない。
四、よつて、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも失当であるから、全て棄却することとし、訴訟費用は原告に負担させて主文のとおり判決する。
(裁判官 大石忠生 本郷元 中条秀雄)
甲第五号証
念書
今般田名部郵便局敷地買上に関し田名部町大字田名部字明神川八番隣接地九番貴殿所有の土地も木村錦一氏に委任してから仙台郵便局に於て買上げる事を貴殿に対しお願い致しました。
つきましては木村錦一氏より貴殿に対して代金支払については仙台郵便局より土地買上代金支払後直ちに履行させることを約束致します。
昭和二四年七月二日
田名部郵便局長心得
畑中新太郎 <印>
石沢完 殿
甲第六号証
預証
一所在地 下北郡田名部町大字田名部字明神川九番
一地 積 壱反弐畝九歩
一地 目 宅 地
右の土地は田名部郵便局電話局敷地に売却する為畑中新太郎を介し貴殿の委任を受け確かにお預りして居ります。
昭和二十四年七月二日
下北郡田名部町大字田名部字柳浦一番地
預人 木村錦一 <印>
下北郡田名部町大字田名部字柳浦五番地参
保証人 畑中新太郎 <印>
石沢完 殿
甲第十二号証
覚書
一、昭和二四年七月二日下北郡田名部町大字田名部字明神川九番地宅地三六九坪石沢完殿所有地を田名部郵便局、電報電話局敷地の目的を以てこれを仙台郵政局に売渡しする為田名部郵便局長心得畑中新太郎が保証人となり木村錦一が委任を受けて一且同人の所有地に名儀変更売買登記の上更に仙台郵政局に売却し其の売払代金は石沢完殿に支払未済である。
二、此の土地処分には別途承諾書、預り証、念書を田名部郵便局長心得畑中新太郎竝に木村錦一両人より石沢完殿に対し手渡してあることは事実である。
三、昭和二七年六月七日午前十一時頃此の事件解決の為田名部郵便局当直室に於て同局長斎藤勝男、同局長代理畑中新太郎、木村錦一、石沢完の四人会合の砌木村錦一は前記一、二項の事実を認め且つ石沢完殿の土地売却代金はこれを収受して居る関係上其の代替地を石沢完殿に提供し且つこれが為石沢完殿の蒙りたる損害は全部責任を負えこの問題を解決する旨同局長斎藤勝男、同局長代理畑中新太郎立会の上確約したが物件の表示に対しては判然として居なかつた。
四、石沢完殿に対し木村錦一所有地を無償譲渡する物件の表示
物件の表示
下北郡田名部町大字田名部字明神川八番の四
地目宅地参百六拾九坪
此の内明神川九番の弐竝に拾番を代替地の一部として返還に付き之を前記表示の面積より差引いた残地弐百参拾七坪五合を返還することを覚書に基き同意する。
昭和二十九年一月二十三日
五、第一項より第四項の事項につき早急解決に善処する為覚書を一札差入れます。
昭和二十七年六月七日
田名部郵便局長 斎藤勝男
同局長代理 畑中新太郎
下北郡田名部町大字田名部字柳浦一番地
土木建築請負業 木村錦一
石沢完 殿
甲第十三号証
承諾書
一、所在地 田名部町大字田名部字明神川九番地
一、地積 壱反弐畝九歩
一、地目 宅地
右の土地は昭和十八年中より木材置場及び建物敷地として無断使用のため貴殿より再三注意を受けたるも継続使用し、その後郵便局、電報局建設に際しては畑中新太郎を介して将来共貴殿には絶対迷惑をかけぬよう善処することを口頭を以て確約した事を承諾致します。
昭和二十四年七月二日
田名部町字柳浦一番地
木村錦一 <印>
田名部町字柳浦五番地三
畑中新太郎 <印>
石沢完 殿